例えばこの時期、うっかり雪山で遭難したらどうしよう、そんな事を考えたりする。その時、持ち物がタバコと100円ライターだけだったとしたら……、かなりまずい状況だ。まずは、タバコに火をつけて心を落ち着かせよう。そして、この危機を切り抜ける方法をじっくりと考えるのだ。夜が明けるまで何もせずに待つべきか、それとも一刻も早く動くべきか。慎重に考えを進めるため、二本目のタバコに火をつける。そうなってくるともう、暖かいコーヒーを飲みたくなるに決まっている。しかし、持ち物は100円ライターのみである。さあ、どうしよう? と、雪山での遭難を想像した結果、100円ライターを使ってお湯を湧かさないと雪山から脱出できない事が分かった。暖かいコーヒーを飲まなければ、良い脱出方法なんて浮かばないからだ。お湯が沸いたところでコーヒー豆はどうするのか? 賢明な皆さんであればきっとそう考えるに違いない。しかし、この際それは置いておこう。とにかく、100円ライターでお湯を沸かす事が出来るのか。今回はそこに焦点を当ててみた。 |
【3段階の水量で実験する】
100円ライター 100円ライターをいくつか購入した。正確には消費税を入れて105円であるが、たったの105円で何回も簡単に火をつけられるなんて、改めて考えると100円ライターは優秀なプロダクトである。昔の人だったら1万円でも買うと思う。 今回は、この100円ライターでお湯を湧かす実験である。 実験にあたり、湧かす水の量を3段階用意する事にした。 三角フラスコ 3種類 大、中、小、3タイプの三角フラスコを東急ハンズで買った。ここに水を張り、下から100円ライターの火を当てるのだ。 ハンズの店員さんからのアドバイスもあり、セラミック付きの金網と三脚も購入した。直に火を当てると、当たっている部分だけが暖まってしまいお湯が沸きにくい。セラミック付きの金網越しに火を当てれば、まんべんなく熱が伝わるので効率がいいのだ。遭難に備え、セラミック付き金網を常に鞄の中にしのばせておくと良いかもしれない。 セラミック付き金網 3段階の水量は、それぞれ以下の用途を想定してみた。 ・水量少:エスプレッソ用 ・水量中:コーヒー1杯 ・水量大:カップヌードル1個分 いずれも遭難時に欲しいものばかりである。それぞれ、エスプレッソに80ml、コーヒー1杯は150ml、カップヌードル1個には350mlの水が必要だ。 実験装置 あとは100円ライターの火を当て続ければいいのだが、手で持つ訳にはいかない。ずっと火をつけていると熱くなってしまうからだ。そこで、ガムテープの出番である。着火状態をキープさせるため、手で押さえる代わりにガムテープを巻き付けるのである。 手で押す部分をガムテープで ギュッと押さえ土台に巻き付けると 火はつき続ける これを三脚の下に 配置 このような連続着火装置を3つ作り、大・中・小、それぞれのフラスコを熱していく。 果たして、100円ライターでお湯を沸かす事は出来るのだろうか? 左から、エスプレッソ用、コーヒー1杯、カップヌードル1個 火を当てる前の水の温度はそれぞれ16度 |
【開始5分、火が弱まる】
100円ライターの火を当て始めてから5分、エスプレッソ用とカップヌードル用の火が急に弱まってきた。 開始5分 エスプレッソ用の火が弱くなり カップヌードル用は風前の灯火 それぞれ、ガスの量はまだ充分残っているのに、突然火の勢いがなくなってしまったのだ。フラスコの中の水は湧く気配もない。このままお湯を沸かす事なく終わってしまうのか? 誰もが(実験してるのは僕一人ですが)落胆し始めたその時、真ん中のフラスコに水泡が出来始めた。真ん中の100円ライターのみ、火の勢いが変わらないのだ。もしかしたら、100円ライターには当たりハズレのような個体差があるのかもしれない。 望みを真ん中のフラスコに絞り、その状況を見守った。 真ん中のライターは元気 フラスコ内に水泡が! その4分後、開始から9分が経った時、真ん中のライターもあっけなく消えてしまった。ガムテープの強度が熱で弱まったせいかもしれない。熱さを我慢して手で火をつけようと試みるが、何度押しても火はつかない。まだガスは残っているが、ウンともスンともいわないのだ。壊れた、と言っ ても過言ではない状態だ。 ガスは残っているのに… 手でつけてもつかない 一応、水泡が出来た真ん中のフラスコの水の温度を測ってみた。 9分間100円ライターの火で暖められて何度まで上がったのか? 実験開始時は16度であった。 35.7度 ちょっとぬるいお風呂くらいであろうか。コーヒーを入れるには温度が足りない。
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【あきらめない】 ここであきらめてしまう事も出来る。遭難したら150mlの水を用意して、それを100円ライターで9分間暖めればぬるま湯になるのだ。それをチョボチョボすすりながら、「ああ、ぬるい」とため息をつく。 ダメだ。 それでは絶対に助からない。 せめてエスプレッソくらいの量だったら湧かす事が出来るかもしれない。さっきのエスプレッソ用のライターはたまたま調子が悪かったのだ。状態のいいライターを使えば湧くかもしれない。 ターゲットをエスプレッソ用に絞り、再チャレンジしてみよう。 先ほどと同じ手順で80mlの水を沸かしにかかる。 エスプレッソ用のみを試す 連続着火装置、再起動 今度はライターの調子がいい 今度のライターはかなり勢いがいい。 これならばいけそうだ。 6分後、湯気も立ち始めた。 写真では見えづらいが、湯気が立ち始めた 今度こそ100円ライターでお湯が沸きそうだ。 がんばれ100円。エスプレッソはすぐそこだ。 消えた と、盛り上がったのは湯気が出た所までであった。 今度も開始から9分後、ライターの火は消えた。手でやっても付かない。何度やっても付かない。やはり、「壊れた」と言っても過言ではない状態になってしまった。しかもお湯は沸いていない…。 が、湯気は立った。 先ほどよりは暖まったに違いない。 気を取り直して、水温を測ってみた。 63.9度 おお! かなり熱くなっているのではないだろうか? 以前、「シンクがボンッ!と鳴る温度を探る」という記事では、60度を超える水を流すとシンクがボンッ!と鳴る事を解明した。つまり、この水をシンクに流せば、ボンッ!ってなるくらい、熱いのだ。 100円ライターで暖めた水をエスプレッソ用のカップに注ぎ飲んでみた。 飲んでみた 充分熱い。僕は猫舌だからかもしれないが、これくらいあれば充分だ。むしろ、これくらいの温度が調度いい。 お湯を沸かす事は出来なかったが、エスプレッソサイズであれば、熱いコーヒーを楽しむ事が出来るかもしれない。
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注意書きには「たばこの点火専用」とありました。すみません。 ※危険ですのでよい子はマネをしないでください。 (2008/2/18 住正徳) |