すみましん/ムッシュ・シマウマ リターンズ/ダンス・ウイズ・うるぐす

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ダンス・ウイズ・うるぐす

「街に出よう、靴を磨こう」(段ボールに手書きの看板)

「これって、あなたが書いたの?」
「えっ?」
「この看板」
「ええ」
「ちょっと、引っかかるね」
「引っかかる?」
「うん」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「何か間違ってました?」
「間違ってるでしょ」
「漢字ですか?」
「違うわよ!順番が」
「順番?」
「だって、普通、街に出るために靴を磨くんじゃないの?」
「はあ……」
「街に出るために、お洒落して電車に乗るのよ」
「まあ、そうですね」

キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。

「私ね、詩人なの」
「詩人?」
「そう」
「ポエムですか?」
「ポエムじゃないわよっ!」
「あ、すみません……」
「私の場合は、現代詩ね」
「はあ……」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「だから、言葉に対して敏感なの」
「ああ、だから…」
「そう、あの看板が引っかかったの」

「鼓動を信じたい!」
「えっ?」
「すべてを超越したリズムを刻んで…」
「……」
「あら、ごめんなさい。あなたが靴を磨いているところを見てたら、浮かんできちゃって」
「ポエムですか?」
「だから、現代詩だって言ってるじゃない!」
「…すみません」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。

「例えば、私が普段何をして生きているのか、とか知りたくなるでしょ?」
「いえ、特には……」
「私はなるの!今、あそこで携帯かけながら深刻そうな顔をしているスーツを着た男の人とかが」
「あの人ですか?」
「そう、ちょっと江川に似ている、あの人」
「聞いてみたら、どうですか?」
「そんなことしたら、ブチ壊しじゃない!」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものなの」

「こんな所に座ってたら、色々と見えてしまうでしょ?」
「は?」
「こうして、あなたと話している瞬間でも、この周りではたくさんの人たちがたくさんの言葉を交わしてる」
「はあ…」
「色々な感情や事情を抱えながら」
「はあ…」
「私がこんな所に座ってたら、気になっちゃってどうしようもなくなるわね」
「慣れれば、気にならないもんですけど」
「それは、あなたが詩人じゃないからよ」
「……」
「詩人って、そういうものなの」

「路上はワタシ、ワタシは誰?」
 大きな声で両手を広げて。
 恍惚。
「あの、すみません」
 携帯をかけていたスーツの男が近付く。
 男の胸元からは警察手帳。
「ちょっと、いいでしょうか?」
 何かを叫びながら連行されていく女流詩人。


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