哀愁のカサブランカ・ダンディ
「ジュリーって新御三家だったっけ?」
「え? ジュリーって?」
「ジュリーはジュリーよ」
「ああ、沢田研二のことですか?」
「そう、ジュリーよ」
「はあ……、で?」
「だから、ジュリーは新御三家の1人だったか、っていう話し」
「ああ、ジュリーは新御三家じゃないと思います」
「ええー、そうだっけ?」
「はい。新御三家は郷ひろみと西城秀樹と……」
「だから、ジュリーじゃない?」
「いえいえ、郷ひろみと西城秀樹と……」
「じゃあ、誰なのよ?」
「郷ひろみと西城秀樹と……」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「勝手にしやがれ、って感じ?」
「何がですか?」
「もし、あなたの彼女が家を出て行ったら!」
「いやあ、僕は1人ものなので、その辺は……」
「想像してみて!」
「うーん……」
「どう?」
「とりあえず、今度は右足を」
「え? ああ……」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「これが初めてって訳じゃないのね」
「何が、ですか?」
「いや、こうして家を出たのが」
「え! 家を出たんですか?」
「そう、さっき出て来たの」
「はあ……」
「別に結婚してる訳じゃないから、いいんだけどね」
「……そうですか」
「いいって訳でもないんだけど……」
「はあ……」
「同じことの繰り返しなの」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「私の足が気になるでしょ?」
「足がですか?」
「とぼけなくてもいいのよ、痣だらけでしょ」
「ええ、まあ……」
「彼、暴力が凄いの」
「え? これ全部ですか?」
「そう、全部」
「…………」
「ひどい男なの!」
「戻る気になりゃいつでもおいで、って思える?」
「僕にはちょっと分からないです……」
「じゃあ、彼はそう思ってるかしら?」
「いやあ、どうでしょう……」
「ああ見えて結構気が弱いところもあるから」
「……そうですか」
「でも、ここで戻ったらまた同じことを繰り返すし」
「…………」
「新御三家って、みんな結婚しちゃったのよね」
「ええ、郷ひろみも西条秀樹も、あと……」
「ジュリーは田中裕子と二人でCM出てるしね」
「いやいや、ジュリーは違いますよ」
「え? 田中裕子じゃなかったっけ?」
「いや、田中裕子はあってますけど、新御三家じゃ……」
「たのきんではヨッちゃんが一番いい大人になったわよね」
「はあ……」
「彼も結婚したのよね」
「そうですか?」
「うん、元AV女優の子とね」
「膝の下にカサブタがあるでしょ」
「あ、はい」
「なんか、これ、剥がしちゃうの」
「え?」
「こうやって」
剥がれるカサブタ。中から生々しい傷口が顔をのぞき、
真っ赤な血が一筋流れる。
「こう、剥がす時はちょっと痛いんだけど、何か面白くって癖に
なっちゃうのよ」
「…………」
「で、明日にはもうカサブタになってるの」
「はあ……」
「同じことの繰り返し」
「せめて、少しはかっこつけさせてあげようかな」
「え?」
「ラストチャンスってこと」
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