麗しのツインピークス

「仕事、やめようかなあ……」
「え？」
「いや、だから、今の仕事やめようかと思ってるんです」
「はあ……」
「このまま続けても、体こわすだけなような気がするんです」
「そうですか……」
「そうなんです」
「じゃあ、とりあえず左足を」
「左足？」 「はい、左足を」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。

「お客さんだったんです」
「え？」
「いや、だから、今の彼氏です」
「あ、はい」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「不思議ですよね、オトコって」
「不思議……？」
「不思議です」
「はあ……」

「最初は熱心だったんです」
「……はい」
「毎日のように通ってきては、私を指名してくれて……」

キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「毎晩のようにお酒飲むでしょ、だから、最近体が心配で」
「それは、心配ですね」
「やっぱりそう思います？」
「週に１度は休肝日をつくった方が……」
「分かってはいるんです。でも日曜日とか仕事がない日でもついついお酒に手がのびてしまうんです」
「そうですか……」
「もう、習慣になってしまって」
「じゃあ、すみません、右足を」
「え？」
「右足を……」
「あ、はい」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。

「後から分かったんですけどね」
「え？」
「彼、結婚してたんです」
「……」
「子供までいるんです」
「はあ……」
「嘘ついてたんですよ、ずっと……」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。

「そう言う私も、実は人のこと言えないんですけど……」
「嘘を？」
「……」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。

「ちょっと私の胸見て下さい」
「えっ？」
「結構、大きいでしょ？」
「ええ……」
「触ってみて」
「いやあ、それは……」
「いいから、ほらっ！」
サマーセーター越しの感触。
推定Ｄカップ。
「どうです？」
「……」
「この胸、偽物なんです」
「えっ？偽物？」
「そう、詰めてるんです」
「……」

「わたしの生年月日とか、聞かなくてもいいの？」
「え？」
「１９７８年、3月14日生まれの魚座です」
「はあ……」
「で、どうですか？」
「何が、ですか？」
「何がって、わたしの運勢です」
「運勢って？」
「だって、占いでしょ？これ」
「いやあ、占いじゃ……」
「え？違うの？」
「靴磨きですが……」

「……」