愛しのバミューダトライアングル
「あんたシマウマだったでしょ?」
「……」
「シマウマだったんじゃない?」
「ええ、まあ……」
「やっぱりね」
「でも、どうして?」
「分かるわよ。なんとなくシマシマ模様が残ってるもの」
「そうですか?まだ残ってますか?」
「こうして上から見るとちょっとね」
「そうですか……」
キュッキュッキュッキュッ。
「タバコ、吸ってもいい?」
「どうぞどうぞ」
スゥー、ハー。
「なんか、イイコトあった?」
「えっ?」
「最近、なんかイイコトあった?」
「ああ。特に、ないですね」
「そりゃあ、そうよね」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「あらっ?怒った?」
「いえいえ……」
「そういう意味で言ったんじゃないのよ」
スゥー、ハー。
「こんな所でこんなことしているアンタにいいことなんてあるはずないってことじゃなくってね、この街にいたところでいいことなんてって意味よ」
「分かってますよ」
「そう?なら良かったわ」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「じゃあ、すみません。右足を」
「はい、はい」
キュッキュッキュッキュッ。
ピロロピロピロピロピロピー(ゴッドファーザー愛のテーマ)。
「もしもし?」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「ええ、行けますよ」
キュッキュッキュッキュッ。
ゴシゴシゴシゴシ。
「分かりました。203号室ですね」
「不思議に思う?」
「何がですか?」
「私なんかがこうして靴を綺麗にしてもらってるってことが」
「いえ、思いません」
「嘘よ!」
「……」
「誰だって嘘よ!野良猫は野良猫のままが幸せだったの!人の温もりなんて知らない方が良かったのよ……」
頬を伝う涙。
ピロロピロピロピロピロピー(ゴッドファーザー愛のテーマ、再び)。
ピロロピロピロピロピロピー。
「出ないんですか?」
「非通知だから、きっとロクな電話じゃないわ」
ピロロピロピロピロピロピー。
ゴシゴシゴシゴシ。
ピロロピロピロピロピロピー。
ゴシゴシゴシゴシ。
ピロロピロピロピロピロピー。
「しつこいわねえ、ちょっとあんた出てよ」
「いやですよ……」
「いいから、ほらっ!」
ピッ!
「あのー、もしもし」
プーップーップーップーッ。
「……」
「そういえば、昔、シマウマと子ゾウのお母さん捜しが話題になったことがあったわね」
「……」
「あれから、あの二人はどうなったのかしらね?」
「さあ……」
「どうなったのかしら……」
「あなた、イイコトないんでしょ?」
「ええ、まあ」
「ちょっと顔を上げてみなよ」
「えっ?」
脚を組みかえる女。スカートの奥の三角地帯がのぞく。
色は黒。
「どう?」
「どうって……」
「お互い、幸せになれるといいね」
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