ある街の飲食店街に4軒が軒をつられて店を構えている場所がある。何十年もずっとその場所でやってきた古いお店たちだ。ある時、そのうちの1軒がテレビで取り上げられた。おばあちゃんが1人で切り盛りしている焼肉屋で、こだわり抜いた最高のお肉を安く食べられる、と話題になった。テレビ効果で連日たくさんのお客さんが訪れるようになり、今では予約しないと入れないほどの人気店になっている。
先日、そのお店に入れずに隣りのお店に入った。隣りのお店も年配の女性が1人で切り盛りしていて、料理もお酒も安くておいしい。僕はすっかりそのお店が気に入ったので、おばさんとしばらくお話しをした。ここ数年の不景気話からちょっとしたおばさんの半生まで。軒を連ねる4軒はみんな同じ大家さんだ、という話題に話が及んだ時、隣りの、今や繁盛店の話を振ってみた。長い間お隣同士でやって来たのだから、きっと繁盛して喜んでいるのだろう。相乗効果も期待出来る。
「隣りの焼肉屋さんはすっかり人気店ですね」
僕がそう言うとおばさんの顔が少し曇った。触れちゃいけない話題だったのかもしれない。しばらくして、おばさんはポツリとこう言った。
「でも、あそこは肉のハナマサで肉買ってるけどね」
何十年とお隣り同士でやっていると、きっと色々なことがあるのだ。
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