スミマサノリ「月曜日にオジャマシマス」

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築地で仕事の打合せがあった。約束の時間より早く着いてしまい、喫茶店で時間を潰していたら、興味深いチラシが目に入った。「中央区限定、お江戸旬カレー 誕生」と書いてある。何でも、中央区観光協会50周年記念事業として開発されたカレーらしい。以下のような特徴があるという。

1.スリランカの約30種類のスパイスを使った特製カレー粉を使っている。
2.日本の鰹節を使っている。
3.「旬の食材」を使っている。

カレーの本場スリランカ産のスパイスと築地の旬の食材がコラボしているのだ。旨いに決まっている。今すぐ食べに行きたい。しかし、この後には打合せが控え ている。「お江戸旬カレーを食べに行くので打合せは延期で」などと言えるはずもなく、とりあえずチラシをバッグにしまった。打合せが終わったら食べに行け ば良い。チラシの裏には「お江戸旬カレー」の取扱店が14店ほど掲載されている。打合せ帰りに近いお店に寄って行こう。

と、上機嫌で打合せをこなした。その時、時間は夕方の6時半。ちょうど良い時間である。思う存分、お江戸旬カレーを味わえる。

ところが、である。
これがそう簡単ではなかったのだ。

お江戸旬カレーをもとめて、夜の築地を彷徨うことになってしまった。

果たして、お江戸旬カレーを食べることは出来たのか?


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【簡単には食べられない】

先ほどのチラシをバッグから取り出して、取扱店に電話をかけてみた。

お江戸旬カレーはありますか?

しかし、ほとんどのお店が築地場外市場にあって、夜は営業していなかった。築地の朝は早いのだ。どこも朝の6時くらいから店を開き、ランチタイムが終わる頃にはお店を閉めてしまうのである。

いきなり困ってしまった。
日を改めてランチタイムを狙うという手もあるが、それは少し億劫だし、とにかく今すぐ食べたいのだ。

とりあえず、お江戸旬カレーを取り扱うお店に片っ端から電話をかけることにした。夜も営業しているお店が1つくらいはあるはずだ。

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築地場外市場

そして、9軒目。ついに夜も営業しているお店が見つかった。「築地青空三代目本店」というお店だ。電話口でお店までの道順を聞いて、早速向かった。あきらめずに電話をかけて本当に良かった。

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路地に入る

晴海通りを勝鬨橋方面に歩き、少し行ったところで路地に入った。閉まっているお店が多いが、いくつかネオンが光っている。

この路地の奥に、「築地青空三代目本店」がある。

スリランカと築地のコラボまで、あと少しだ。

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酒屋の軒先の猫

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キリン

路地を奥まで進むと、「築地青空三代目本店」の看板が見えた。

あそこだ!

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「築地青空三代目本店」

チラシを見る限りでは居酒屋さんだと思っていたのだが、どうやらお寿司屋さんのように見える。

お寿司屋さんにカレーが?

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旬の食材

入口を入ると大きな生け簀があって、新鮮な魚や貝で溢れている。この食材がカレーの中に入っているのだろうか?

どんなカレーが出て来るのか予想もつかない。

そして、僕はカウンター席に通された。

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カウンター席に

カウンターの席に着いた時点で、薄らと気付いた。

ここは本格的なお寿司屋さんだ。

カウンターの中には板前さんが4人もいて、ガラスケースの中にはお寿司のネタが並んでいる。金目鯛、ヒラメ、カレイ、鯖、鯵、そして脂の乗ったマグロ。

どう考えてもこのお店がカレーを出す感じがしない。
周りのお客さんを見ても、誰一人カレーなんて食べていない。

あのチラシは何だったのか?

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みなさん寿司職人

こんなちゃんとしたお寿司屋さんで、カウンターに座ってカレーを頼む。そんなこと出来る訳がない。

とりあえずビールを頼んで様子を伺うことにした。

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とりあえずビールを

ビールが来るまでの間、メニューに目を通した。隅から隅まで、じっくりと見た。
どこにも「お江戸旬カレー」の文字はない。

中の職人さんに聞く勇気もない。

「お江戸旬カレーありますか?」

と聞いた瞬間に、お店全体が凍り付くに決まってる。

仕方がないので、さんまを握ってもらった。

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さんま


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【もう一つの候補】

結局、さんまとマグロを握ってもらい、ビールを2杯飲んでお店を出た。お江戸旬カレーは、ランチタイム限定のメニューなのかもしれない。

それにしても、なんで僕はお寿司を食べたのか?

確かにお寿司はおいしかったけど、目的は寿司じゃない。カレーなのだ。お江戸旬カレーが食べたかったのだ。

チラシの裏を見て、残る1店舗に電話をかけた。

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次の候補店に電話をかける

電話をかけたお店は、「笑座こんぱる」というお店である。

「すいません、今日は営業していますか?」

と聞くと、今1回目のショータイムが終わったところです、と答えが返ってきた。

そう、「笑座こんぱる」はショータイムがあるお店なのだ。いわゆるショーパブ、である。お江戸旬カレーを食べるために、ショーパブに行く。何かが間違っているような気がする。

しかし、僕のお江戸旬カレーへの想いは大きくなるばかりで、気付くと次のショータイムの時間を聞いていた。

次のショータイムは22時。21時から入店出来るという。

もう行くしかない。
予約を入れた。

電話を切る前に、念のため聞いた。

「お江戸旬カレーはありますか?」

すると電話口から、ありますよ!と答えが返ってきた。やった!
少し遠回りをしたが、ようやくお江戸旬カレーを食べることが出来る。

「笑座こんぱる」は銀座8丁目にある。築地場外からは少し離れているが、時間もあったのでゆっくりと歩いて向かった。

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「笑座こんぱる」

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店内へ続く階段

これからカレーを食べに行くとは思えない雰囲気である。

というか、ここはショーを見るためのお店であって、カレーを目的にやって来る僕みたいなお客の方がイレギュラーなのだ。

ゴージャスな装飾はカレーのためではない。

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ステージの目の前の席で

ステージの真ん前の席に通された。
テーブルに置いてあったフードメニューをめくると、それはあった。

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お江戸旬カレー

ナン付きで1000円。30種類のスパイスと旬の食材が入って1000円である。良心的な値段だ。

ただ、ここはショーパブなのでショーチャージが3000円かかる。都合、4000円のカレーというわけだ。

僕は何をやっているのだろう?

いや、ここで我に返ったら負けだ。
何に対して負けなのか、自分でも良く分からないが、そう思った。

ボーイさんにお江戸旬カレーとハイボールを頼んだ。

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僕は今、ショーパブにいます

お店に入ったのが21時過ぎだったので、ショーが始まるまでは1時間近くもある。その間、僕の席にはこれからショーで踊る人たちが入れ替わり立ち替わり やって来た。若い女性、それほど若くもなさそうな女性、外国の男性、女性っぽい男性、男性か女性か分からない人。みんなが名刺を渡してくれる。

そして、みんながみんな「ここは初めてですか?」と聞いてきた。初めてです、と答えると「どこでここを知ったの?」と聞かれる。お江戸旬カレーのチラシで、とは言えないので、ネットで見つけた、と答えておいた。

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ダンサーさんたちの名刺

僕はただ、お江戸旬カレーが食べたかっただけなのに、何故ショーパブでダンサーたちから名刺をもらっているのか。

人生は不思議で溢れている。


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ついに登場、お江戸旬カレー


ダンサーたちから名刺をもらっていると、ついに僕の目の前に、お江戸旬カレーがやって来た。
ナンもついている。

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ナン付き

ようやく辿り着いたお江戸旬カレーである。

じっくりと味わいたい。

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お江戸旬カレーを

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食べた

おいしい。
おいしいけど、落ち着かない。


それは多分、ここがショーパブだからだと思う。

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ショーの幕が上がった

ちあきなおみからレッドツェッペリンまで、幅広い音楽に合わせて9人のダンサーが素晴らしい踊りを見せてくれた。自然と手拍子をしている自分に気付く。

50分のショータイムはあっという間に過ぎていった。


そして、ショーが終わったころにはすっかりお江戸旬カレーのことを忘れていた。

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すっかり疲れました


(2009/10/26 住正徳)

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