9年前に他界した僕の父は、酔っぱらって帰宅することが多かった。そして帰ると必ず「お茶漬け程度」と母に食べ物を要求していた。「お茶漬け程度」はあくまでもお茶漬け程度であって、お茶漬けそのものが食べたい訳ではない。母が何を出していたのか、今となってははっきりと思い出せないが、何かしら軽い食べ物を作っていたんだと思う。「お茶漬け程度」には、お茶碗一杯分のご飯ほどのボリュームで、お茶漬けのようにさらさらと食べる事が出来て、作る方もそんなに面倒臭くない、という意味が込められていたのだろう。お茶漬け程度。便利な言葉である。自分も酒飲みになって父の気持ちが良く分かるようになった。 ただ、僕は父と違って飲んで帰ると良くお茶漬けそのものを食べている。家の者はみんな寝ているし、自分で簡単に作れるのはお茶漬けくらいしかないからだ。夜中に暗いキッチンで1人、お茶漬けをさらさらしながら時折むせたりする。我ながら哀愁漂いまくりだと思う。でも、おいしいからそれでいいのだ。昨日もしっかりお茶漬けを食べた。そして、酔っぱらった頭にふとある考えが浮かんだ。 お茶漬けの素からお茶だけを取り出して飲んだらどんな味がするのだろうか? 気になったのでお茶漬けの素をもう1袋開けて、お茶とそれ以外に分けてみようとした。しかし、酔っぱらいにそんな作業が出来るはずがない。すぐに諦めておとなしく寝た。 というわけで今日、しらふの状態でお茶漬けの素のお茶の味を確かめます。 |
【永谷園のお茶づけで実験】 今回使用するお茶漬けの素は永谷園の「さけ茶づけ」である。やはり、一番馴染みの深いこの商品を使いたい。 永谷園さんのホームページには永谷園の歴史が載っていて、そのルーツは徳川八代目・徳川吉宗の時代まで遡るという。暴れん坊将軍の時代である。その頃、永谷家の祖先・永谷宗七郎さんが「煎茶」の開発に成功したらしい。日本の煎茶の創始者が永谷園のルーツなのである。そんな由緒ある「お茶づけ」だったとは……。今まで酔っぱらった時にばかり食べて申し訳ないと思う。 さけ茶漬けを使う この「さけ茶づけ」の成分表を見ると、「調味顆粒」として食塩、鮭エキス、鰹節エキスなどが記述されていて、その中に「抹茶」という表示があった。 永谷園のお茶漬けには抹茶が使われていたのだ。 抹茶が使われている 緑の顆粒が抹茶と思われる このお茶漬けの素から、緑色の顆粒だけを抜き出してお湯で戻す。 きっとおいしい抹茶を味わえるはずだ。 まずはザルでふるいにかけて、鮭フレークや海苔、あられといった大きなものを避けていく。 ふるいにかけて 大きな具材を 選り分ける ザルで選り分けた結果、かなりの精度で緑の顆粒だけを抽出することに成功した。おそらく、これが抹茶だと思われる。 緑の顆粒が抽出された 抽出出来た緑の顆粒の匂いを嗅いでみた。これが全て抹茶であれば、抹茶の香りがするはずである。 匂いを嗅いでみた まだ磯の香りがする。おそらく、鮭フレークの欠片や細かい海苔が混ざっているのだろう。 さきほどのザルよりも目が細かい茶こしを用意した。 茶こしを使ってさらにふるいにかけるのだ。 茶こしを使って 更にふるいにかける この茶こし作戦も効果的であった。緑の顆粒だけが残ったものと思っていたが、緑色じゃない細かい顆粒が更にふるい落とされたのだ。 緑色じゃない顆粒 成分表から推測するに、この緑色じゃない顆粒は「鰹節粉」「昆布粉」あたりではないだろうか。これが混ざっていたから磯の香りがしたのだ。 今度こそ抹茶と思われる緑色の顆粒だけになったはずである。 抹茶か? しかし、よく見るとまだ細かい鮭フレークの欠片が残っていたりする。 毛抜きを使って緑じゃないものを徹底的に排除していった。 毛抜きをつかって余分な物を排除 細かい作業である。 息を殺してかからないと、鼻息で抹茶が飛んでしまう。細心の注意を払って、限りなく純度100%へと近づけていく。 こういう作業をうまくこなすコツは、やっていることに疑問を抱かないことである。疑問を抱いたら最後、その瞬間に一気にやる気がなくなってしまうからだ。 永谷園の祖先、永谷宗七郎さんも、きっとこんな心境で煎茶を開発したに違いない。 そう自分を励ましつつ、20分ほどで純度100%を達成することが出来た。 そんなに大変じゃなかった。 純度100%の抹茶と思われる顆粒 これにお湯を注げば抹茶になるはずであるが、ここで別のお茶を用意することにした。伊藤園の「おーいお茶」顆粒タイプである。 永谷園と伊藤園、それぞれのお茶を飲み比べてみるのだ。 伊藤園の「おーいお茶」 顆粒タイプ 見た目的には、永谷園の方が粒子が粗く伊藤園は細かい。 それぞれ匂いを嗅いでみた。 永谷園の匂いと 伊藤園の匂いを比較 伊藤園の香りはお茶そのものであったが、永谷園からまだ少し磯の香りがするのが気にかかる。まだどこかに磯的なエキスが残っていたのだろうか? 再び毛抜きを使って作業することも考えたが、緑の顆粒以外の要素を肉眼では見つけられそうもないのでやめた。 永谷園と伊藤園、それぞれのお茶にお湯を注ぐ。 永谷園にお湯を注ぎ 伊藤園にも注いだ お湯を注いだ結果、その色に大きな差が出た。 伊藤園のお茶の方が圧倒的に色が濃い。 永谷園のお茶 伊藤園のお茶 ここからいよいよ飲み比べる訳だが、雑念を払うために目隠しをして飲むことにした。スタッフにどちらかのお茶を渡してもらい、味覚と臭覚だけで味の違いを感じていく。 飲み比べスタート どちらのお茶から渡されるのか、僕は知らない。 スタッフは最初に永谷園を選択 スタッフから手渡された湯のみをゆっくりと口に近づけていく。 さあ、どっちのお茶だ? うわっ もの凄くしょっぱい。濃い昆布茶のような味がする。絶対、こっちが永谷園に決まってる。 すぐに分かった。 あれだけ選り分けたのに、なんでだろう? 緑の顆粒には抹茶以外に何か他のエキスが混ざっているのだろうか? いずれにしても、抹茶の味はしない。 既に今飲んだ方が永谷園であることは明確であるが、一応目隠しをしたままもう1つのお茶を飲んでみた。 もう1つのお茶を試飲 あ、おいしい おいしいお茶である。 |
結局、お茶漬けの素からお茶だけを抽出することは出来なかった訳だ。抹茶はどこに入っていたのだろう? もしかしたら鮭フレークだと思っていた物体が抹茶だったのかもしれない。抹茶=緑色、という勝手な思い込みがいけなかったのだ。そう思って試しに鮭フレークをかじってみた。 鮭の味がした。 抹茶はどこにいったのだろうか? (2009/7/6 住正徳) |