スミマサノリ「月曜日にオジャマシマス」

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手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫…。漫画界の巨匠たちが住んでいた伝説のアパート、トキワ荘。東京都豊島区南長崎に存在した2階建ての木 造アパートである。1982年に老朽化のため解体されたが、今でも南長崎に行くと当時の面影が所々残っているという。この4月には記念碑も建設されてい る。

少年時代を漫画で過ごしてきた僕である。やはり一度はトキワ荘(があった場所)に行っておくべきだと思う。そして、当時から営業を続けている「中華食堂松 葉」のラーメンを食べてみたい。「松葉」のラーメンは、藤子不二雄さんの「まんが道」をはじめとする当時の作品の中に度々登場する。また、藤子漫画のサブ キャラクターとして有名な「ラーメン大好き小池さん」のモデル、アニメーターの鈴木伸一さんがこよなく愛したラーメンでもある。つまり、トキワ荘に集って いた巨匠たちが食べていたラーメンなのだ。それは是非食べたい。


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【トキワ荘があった町を歩く】

かつてトキワ荘があった町は、大江戸線の落合南長崎駅から歩いて10分ほどの場所にあった。最寄り駅は他にもあるが、僕の事務所がある渋谷からは大江戸線を使うのが便利、と乗り換え案内に案内された。

駅から目白通りを南下して最初の交差点を左折、しばらく歩くと商店街が見えてくる。その名も「ニコニコ商店街」。かつてトキワ荘があった場所は「ニコニコ商店街」というピースフルな名前の商店街の中にあるのだ。

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ニコニコ商店街

商店街に入ると、各商店の軒先に「トキワ荘のあった街」というパンフレットが置いてあった。ニコニコ商店街のマップと、トキワ荘にまつわる場所の解説が載っている。ここを聖地と考える人間にとっては、ディズニーランドのマップのようなものである。

このマップを片手にニコニコ商店街を歩いていく。


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無料配布しているパンフレット

訪れた日は、ちょうど「お祝いセール」の最中であった。何をお祝いしているかというと、4月4日に完成した「トキワ荘記念碑」のお祝いである。500円の買い物ごとに金券が当たるスピードくじをもらえるらしい。渋谷

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記念碑お祝いセール実施中

記念碑が完成して間もない時期である。各地からマンガファンが集っているのかと思いきや、商店街は割と閑散としていた。平日の昼下がりだからだろ うか? お花屋さんの旦那さんに聞くと、週末はかなり賑わっているとのことであった。そうか、逆に平日の午後で良かったのかもしれない。ゆっくり歩ける。

商店街を北西に上っていく。


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鶴の湯跡地

まずは「鶴の湯」があった場所である。「トキワ荘のグループが下駄を鳴らしながら通ったのが鶴の湯でした」とパンフレットに書いてあった。ここに手塚先生 や藤子不二雄先生が通っていたのだ。平成3年に廃業してしまったので、今やその面影は一切ない。出来れば同じお風呂に入りたかった。


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トキワ荘跡地

そして、ここがトキワ荘の跡地である。この路地の奥に、トキワ荘はあったのだ。
現在は日本加除出版という会社の社屋になっている。


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この辺りにあったらしい

トキワ荘の痕跡はすっかりなくなっているが、大きな門柱は当時のものをそのまま使用しているらしい。とりあえず門柱に触っておいた。


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当時の物っぽいポンプ

そもそもトキワ荘は、当時のマンガ雑誌出版社「学童社」が自社の雑誌で連載を持つ漫画家を入居させるために作ったのだとか。最初の入居者は手塚治虫さんで、それ以降、蒼々たる面々の漫画家たちがここで寝食を共にしていたのだ。

なんだかじわっと感慨深い。
ニコニコ商店街には、古い商店がまだまだ残っていて、どのお店も味わい深い風情を醸し出している。


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洋装店

僕は身長が低いのだが、そんな僕でも頭が飛び出てしまうほど庇が低い洋装店。
中に入ると時代を感じるマネキンがあった。


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古いマネキン

更に、「毎週金曜特売日」と看板のある青果市場。


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青果市場

当時はねじり鉢巻にステテコ姿の店主が店先で威勢の良い声をあげていたという。いわゆる名物おやじ的な人がこの商店街には溢れていたのだろう。さすがに今はステテコ姿のおじさんはいなかったが、お店の雰囲気は当時の趣を残していた。

そんな「昭和」な商店街を歩いていると、インパクトのある看板が目に入ってくる。


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カバン

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お弁当

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ジーンズ丈つめ

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かほり

どれも個性的なレタッチで、昭和のマンガを彷彿させる。



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【4月4日に出来たばかりの記念碑】

そろそろ小池さんのラーメンを食べたいが、その前に、つい最近完成したばかりの記念碑を見ておこう。

南長崎花咲公園の中に出来た記念碑「トキワ荘のヒーローたち」である。


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南長崎花咲公園

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「トキワ荘のヒーローたち」

トキワ荘に住んでいた漫画家10人の似顔絵とサインがあり、トキワ荘のブロンズ模型が乗っている。


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トキワ荘のブロンズ模型

キャスケットを被ったおじさんが、熱心に写メールを撮っていた。
もしかしたら、トキワ荘のヒーローたちに憧れて漫画家を目指して頑張っていたのかもしれない。


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写メールを撮るおじさん

おじさんの写メール撮影が終わったのを確認して、僕も記念碑に近づいてみた。
左上から、寺田ヒロオ先生、藤子・F・不二雄先生、藤子不二雄A先生、鈴木伸一先生、森安なおや先生。中段センターには手塚治虫先生がいて、下段左から、石ノ森章太郎先生、赤塚不二夫先生、水野英子先生、よこたとくお先生。

これだけの巨匠たちが、集まっていたのだ。
改めて、凄い。

そして、この中に「ラーメン大好き小池さん」がいる。


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小池さん

アニメーターの鈴木伸一先生の似顔絵である。

天然パーマにメガネで締まりのない口元。この小池さんがはじめて登場したのは、藤子不二雄先生の「オバケのQ太郎」である。最初の頃は、「小池さんの家に下宿している鈴木さん」という役名だったらしいが、いつのまにか小池さんと呼ばれるようになったという。

よし、いよいよ「ラーメン大好き小池さん」が愛したラーメンを食べよう。



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【小池さんのラーメン】

「中華食堂松葉」はさきほど紹介した「トキワ荘跡地」の目の前にある。トキワ荘とゆかりの深いお店の中で、唯一現存するお店である。


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当時の写真

写真の真ん中で仁王立ちしている子供が2代目で、今の店主である。


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現在の松葉

入口のドアには「まんが道」で松葉が登場するシーンの切り抜きが貼ってあった。若かりし頃の藤子不二雄先生が、松葉のラーメンを食べて「ンマーイ!」と叫んでいる。


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まんが道の1コマ

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ンマーイ!

ドアを引いて中にはいると、中から女性が出てきた。店主は留守だろうか?

15時過ぎという中途半端な時間だったので、他にお客さんの姿はない。
店内には色紙やフィギュアなどが飾ってあった。

中から出て来た女性に、「ここにトキワ荘の人たちが通っていたんですよね?」と聞くと、「えー、そうですよ」と笑顔で答えてくれた。

しばし、店内を見てまわる。


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小池さんのサイン

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怪物君のフィギュア

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スタンプ

サインを見たり、スタンプを押したりして一通り満足すると、そういえばまだ注文していないことに気付いた。

ラーメンを食べなくては。


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メニュー

なんと、ラーメンが480円である。安い。当時は1杯40円だったというから、12倍の値段であるが、それでも安い。

ラーメンを注文して席に着いた。
ついに、あのラーメンにありつけるのだ。


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ラーメンを作り始めた女性

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ラーメンを待つ

7、8分ほどして、ラーメンが出来上がった。
「ラーメン大好き小池さん」が愛したラーメンが今、僕の目の前にある。


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ラーメン480円

醤油ベースの汁にチャーシューとタマゴとメンマとワカメが乗っている。典型的な東京ラーメンである。僕はラーメンの中では東京ラーメンが一番好きなので、本当に嬉しい。こういう典型的な東京ラーメンを出してくれるお店は意外と少ないのだ。

まずはスープから。


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ンマーイ

続いて麺を。

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太めのちぢれ麺を

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ズルッと

ンマーイ!

とこれが言いたかった。


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一気に

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食べました

いや、お世辞抜きにおいしかった。出来れば毎日通いたいくらいであるが、そうしたら僕が小池さんになってしまう。

食べ終わって落ち着いてから、ずっと気になっていたことを女性に聞いてみた。

「2代目さんは、留守ですか?」

あの写真の中央で仁王立ちしていた子供が、今はどんな風になっているのか? 二代目にお会いしたい。

「いやあ、2年前に病気しまして、今はあまりお店に立ってないんですよ」

と女性が答えてくれた。その女性は2代目の奥さんで、19年前に中国は福建省からやって来たのだという。2代目が病気に倒れてからは、奥さんがお店を切り盛りしているのだとか。トキワ荘時代から続く伝統の味は今、福建省出身の奥さんが守っているのだ。


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奥さんと記念撮影

最後に奥さんと記念撮影をして、お店を出た。
2代目さんが早く回復することをお祈りしながら、「ラーメン大好き小池さん」が愛したラーメンの味を、もう一度思い出していた。


(2009/4/13 住正徳)

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