料理用語に「アルコールを飛ばす」という表現がある。お酒を火にかけて煮詰めたりすることで、アルコール分を蒸発させる。それを「アルコールを飛ばす」と言うのだ。「アルコールを飛ばす」ことで、アルコール臭さを取り除き、料理にコクが出るのだという。さすがお酒、いい仕事をしている。 と、ここで1つの疑問が沸いてきた。 アルコールが飛んだあとのお酒は、一体どんな味がするのだろう? 料理にコクを与えるくらいだから、きっとおいしいに違いない。 気になったので試してみる事にした。 |
【アルコール濃度を確かめるマシーン】 お酒のアルコール分が飛んだか否か、確かめるにはアルコールの濃度を検査する機械が必要だ。ネットで検索をかけてみたが、アルコールの濃度を測るのは簡単じゃない事が分かった。「アルコール濃度計」というものがあるらしいのだが、どれも業務用で、一番安いものでも30万円もする。それはさすがに無理だ。 更に検索を進めると、簡易的にお酒の濃度を測る事が出来る「マドラー」を発見した。 あっとマドラー 水割りの濃さが一目で分かる、魔法のマドラー「あっとマドラー」である。赤、オレンジ、緑という3色のフロートが付いている。 3色のフロートが濃さを表す アルコール濃度によって、このフロートの浮き方が変わるらしい。 濃いとフロートが沈み 薄いとフロートが浮く 3つのフロートが完全に浮くと、それは「ほとんど水」という事になるのだとか。 例えば女の子が隣りに座るようなお店で、このマドラーを使うといいかもしれない。女の子が作ってくれた水割りに「あっとマドラー」を入れて濃度を確かめるのだ。フロートが沈んだら、「あ、ボトル空けさせるつもりだ」と用心出来る。僕はそういうお店に行く事がないので必要ないが、行く予定のある人は是非試してもらいたい。 それはともかく、この「あっとマドラー」を使ってアルコールの飛び具合を確かめる事にした。3つのフロートが浮くまでアルコールを飛ばし、その味を検証する。 |
【ブランデーで試します】 今回の実験にはブランデーを使う。アルコール分37%。飛ばし甲斐のあるアルコール分である。 ブランデー 300mlで実験 300mlのブランデーを火にかけて煮詰めていき、アルコール分を飛ばしていく。 早速火にかける前に、「あっとマドラー」の実力を試してみた。 ストレートのブランデーに「あっとマドラー」を入れてみる。「あっとマドラー」の力が本当なら、3つのフロートは沈むはずである。 沈んだ 見事にフロートが沈んだ。 凄いぞ、「あっとマドラー」。ちなみにこの「あっとマドラー」の製造元は「あ株式会社」というらしい。冠詞みたいな名前である。 ブランデーを鍋にうつして 火にかけます。 飛ばし開始 300mlのブランデーを火にかけるにあたり、周囲に燃えやすい物がない事を確かめ、消火器を用意した。ブランデーが発火して何かに燃え移ったりしたら大変だからだ。これを読んでくれている皆さんは決してマネをしないで欲しい。乾燥しているこの季節、非常に危険である。 アルコール飛ばし中 ブランデーの入った鍋を火にかけてから5分後、ブランデーがいきなり発火した。 高さにして20センチくらいの火柱が立っている。 ブランデーが自然発火 鍋との距離を充分に取りながら、ガスの火を弱くした。 しつこいようであるが、本当に危険なので決してマネはしないで下さい。 弱火に調節 弱火にしても鍋からの火は一向に収まる気配を見せない。 ガスの火を止めて様子を見る事にした。 ガスの火を消しても 燃え続ける ブランデー ガスの火を消してもしばらくの間、ブランデーは燃え続けた。周囲にブランデーの香りが充満している。この匂いだけで酔っぱらいそうだ。 このまま永遠に燃え続けるんじゃないか? そんな気がしてくる。 もちろん永遠に燃え続ける訳はなく、ガスの火を消してから15分後に火はおさまった。 祭りのあと 少し鍋を冷ましてから、火にかけたブランデーを計量カップに移した。 150ml 15分間アルコールを飛ばした結果、ブランデーの分量が約半分になっていた。 また、飛ばす前に比べて色が濃くなっているのが分かる。 アルコールを飛ばしたら濃くなった これでブランデーのアルコールは完全に飛んだ事になるのだろうか? 「あっとマドラー」の出番である。 3つ目が浮ききっていない 「あっとマドラー」の判断では、まだアルコール分が残っているようだ。「あっとマドラー」の説明書によると、「ほぼ同じ比重のフロートは中間にただよいます」とある。中間にただよっている緑のフロートはアルコール濃度8%の比重である。つまり、このブランデーにはまだ8%のアルコール分が残っている事になる。 本当か? 15分間も飛ばして、量も半分になったのに。 飲んでみた。 飲んで確かめる あ、本当だ。 まだお酒の味である。「あっとマドラー」を疑って悪い事をした。今度は信じる事にして、更に煮込む事にした。 再び煮込む 15分煮込んで150mlになったブランデーを、再び鍋に移して火にかけた。 量が少ない事もありすぐに沸騰したが、今度は発火しない。 沸騰してから5分ほど煮込んでみた。 更に量が減った 5分煮込んだ結果、ブランデーは更に減って60mlになってしまった。煮込む前の約1/5である。 そして、その色も更に濃くなっている。 色がもっと濃くなった で、アルコールは飛んだのか? 「あっとマドラー」を入れてみる。 その判定は? 浮いた! 3つのフロートが完全に浮いた。 つまり、このブランデーから完全にアルコール分が抜けた、という事である。 「あっとマドラー」がそう言うのだから間違いない。 よし、これでブランデーから完全にアルコールが飛んだ。 さあ、このブランデーはどんな味がするのか? コップに移して飲んでみた。 飲んでみた まず、匂いが優しい。アルコールの刺激が一切なく、ほのかに甘い香りがしている。 ゆっくりと口の中にブランデーを含んでみる。 ん? 確かにアルコールは飛んでいる。しかし、気のせいだろうか。全く味がしないのだ。 もう1回、さっきよりも多く口の中に入れてみた。 遠くの方でカラメルのような味がしているが、基本的に無味である。飲んだ後、ほんの少し苦味を感じるが、取り立てるほどの苦味でもない。 やっぱりブランデーはアルコールがないとやっていけないのだ。アルコールがいなくなって、ここまで腑抜けてしまうなんて…。 飛ばしちゃってごめん。 無味の液体を飲みながら、ブランデーにあやまっておきました。 (2008/12/22 住正徳) |