先日、タイ古式マッサージを受けて驚いた。前半は普通の指圧マッサージだったのだが、後半からかなりアクロバティックなストレッチになっていくのだ。なんでも、タイの南部地方は指圧療法がメインで、北部地方はストレッチ動作を多用するらしい。僕が行ったタイ古式マッサージは、その両方を取り入れた総合的なタイ古式マッサージだったのだ。 例えば、こんなストレッチ。 この状態から グッと引き上げられる このまま天井に向かってつり上げられたら、プロレス技の「吊り天井固め」である。別名ロメロ・スペシャルと呼ばれるこの技は、メキシコプロレスのルチャ・リブレで生まれた大技だ。 さらに、 片足を取られて この状態からうつ伏せにされて背中に乗られたら、プロレス技の「逆片エビ固め」になる。 また、次の写真のように、背後から相手を羽交い締めにする状態をプロレスではフルネルソンと呼ぶ。 フルネルソン状態 フルネルソンで固められたままグルグル回されて、背後に引っ張られた。 背後に フルネルソンから後ろに投げてそのままブリッジで相手をフォールすると、藤波辰巳が考案したドラゴン・スープレックスという技になる。この技は非常に危険で、一時期、禁じ手とされていた。僕の記憶が確かなら、藤波選手がジュニアヘビー級からヘビー級に転向するのをきっかけに、ドラゴン・スープレックスを解禁していたと思う。とにかく、危険な技なのだ。 と、このようにタイ古式マッサージのストレッチはプロレスの技と良く似ている。 マッサージ屋さんに置いてあった本の挿絵を見ても、とてもマッサージのイラストとは思えない。 タイ古式マッサージの挿絵 ほぼプロレスである。 ってことは、プロレスの技をかけてもらってもマッサージ効果が見込めるのではないだろうか? そう、タイ古式ならぬプロレス式マッサージである。 よし、試しにやってみよう。 |
【昭和プロレスの技をかけてもらう】 小学生の頃から中学生にかけて、僕はプロレスに夢中だった。当時は、アントニオ猪木氏が率いる新日本プロレスとジャイアント馬場氏率いる全日本プロレスの2大団体がしのぎを削っていて、ラッシャー木村氏率いる国際プロレスという団体もあったりした。僕は断然猪木さんの新日本派で、新日の試合会場に足を運びストロングスタイル(新日本プロレスはそう呼ばれていました)のレスリングに熱狂していた。 その後、新日本プロレスからUWFが出来たりしてプロレス団体がグッと増え、僕のプロレスへの情熱も徐々に冷めていった。 というわけで、僕が詳しいプロレスは80年代初頭のプロレスで、技に関してもその当時の技しか知らない。今回のプロレス式マッサージもその頃の技で実践したいと思う。 昭和プロレスの資料文献 プロレス式マッサージを試すには、技をかけてくれる人が必要だ。 そこで、ダーリンハニーの吉川さんに声をかけた。以前、飲み会の席でプロレスの話題で盛り上がった事があり、吉川さんならきっと喜んで技をかけてくれると思ったのだ。 資料文献に目を通すダーリンハニーの吉川さん 吉川さんは快くオファーを受けてくれた。 2人で技を検討した結果、次の様な流れでプロレス式マッサージを構成することにした。 スピニングトーホールド→足4の字固め→リバースインディアンデスロック→サソリ固め→キーロック>→腕ひしぎ逆十字固め→コブラツイスト→卍固め→逆エビ固め→キャメルクラッチ→STF→ボーアンドアローバックブリーカー→ロメロスペシャル プロレスを知らない人にとっては、全く意味が分からない単語の羅列になってしまいました。ごめんなさい。簡単に流れを説明すると、足を極める技→腕を極める技→背筋、全身を極める技、という構成になっています。 タイ古式マッサージでは、まず足をほぐす事で全身の血流を良くすると聞いたので、プロレス式マッサージでもその流れを踏襲した。 では早速、スピニングトーホールドからかけていただこう。 |
【実践、プロレス式マッサージ】 片足を固めて ぐるぐる回る ドリーファンクJr.とテリーファンク兄弟の必殺技である。ドリーファンクJr.はこの技でNWA王者になっているが、相手に背中を見せてしまうという欠点がある。後ろを向いた瞬間にドリーが蹴り上げられる場面を度々目撃した。 ただ、正面を向いた時の締め上げは結構なもので、スネと足首が痛い。 続いて足4の字固めをかけてもらい、更に足をほぐしていく。 奇麗な4の字 痛い… デストロイヤーの必殺技、「足4の字固め」だ。両足のスネがぐいぐい締め上げられる。テコの原理を応用しているので、もの凄く痛い。 間髪を入れず、次の足技にうつる。 続いては「リバースインディアンデスロック」である。 交差させた足の間に片足を入れて 後ろに 倒れる これはアントニオ猪木さんの得意技だ。インディアンが実際に拷問で使っていた技を猪木さんがアレンジしたと言われている。 拷問で使われていただけあって、これもかなり痛い。 吉川さんも手加減なしに体重を預けてくる。小中学生の頃、プロレスごっこからケンカに発展するパターンを何度も経験してきたが、今回はそうならない様にしないといけない。お互いもう大人だ。きっと大丈夫だろう。 次に、足と背筋の両方を極める「サソリ固め」だ。 足を交差させてロックして ステップオーバーする 長州力選手の必殺技だ。吉川さんが指差す先には藤波選手がいる、というイメージであろう。長州選手と藤波選手は、当時激しい抗争を繰り広げていたのだ。 しかし、今回は「プロレス式マッサージ」である。純粋に技をかけてくれればいいのだ。長州選手と藤波選手の因縁を持ち込む必要はない。 その旨を吉川さんに告げて、次の技に入ってもらった。 次からは腕のマッサージである。 まずはキーロック。 キー ロック 仕掛ける選手の右腕を支点として相手の左腕を締めつけていく。もちろん痛い。 これもアントニオ猪木さんが良く使っていた技である。大巨人、アンドレ・ザ・ジャイアントに仕掛けた際、キーロックされたアンドレがそのまま猪木を持ち上げたシーンはあまりにも有名だ。 ここからは猪木さんの技が続く。 腕ひしぎ逆十字固め コブラツイスト コブラツイストの変形で 卍固め 猪木さんの必殺技3連発によって、吉川さんが疲れてしまった。 ここまで、相当な体力をつかっている。 ちょっと休憩 こうやってプロレスの技をかけられるのは、本当に久しぶりである。2人とも大人なので全くケンカにはならないし、何より楽しい。童心に帰る、とはこの事を言うのだろう。 さあ、次は背筋を伸ばします。 逆エビ固め キャメルクラッチ からの、 蝶野選手の STF STFとは、ステップ・オーバー・トー・ホールド・ウィズ・フェイスロックの略である。蝶野選手の必殺技だ。 この技をかけながら、蝶野選手は「アスク・ヒム!」と英語でレフリーに声をかける。ギブアップかどうか彼に尋ねろ! という意味だ。 そしてここから、プロレス式マッサージはクライマックスに向けて盛り上がっていく。 再びアントニオ猪木さんの必殺技から、「ボーアンドアローバックブリーカー」である。 相手の両足をレッグロック、更に顎をチンロックして 両膝を相手の背骨に押し付けてもちあげる これは、プロレスの神様カール・ゴッチ氏から猪木さんに引き継がれた高等テクニックである。いっぺんに足、顎、背骨の3点を絞り上げる複合技で、かなりきつい。 かなりハードだ さすがは神様の技である。技をかける吉川さんもヘロヘロだ。 この技から発展して、相手の両腕をきめて持ち上げるのが最後の大技、「ロメロ・スメシャル」である。 足と腕をロックして 反動をつけて相手を持ち上げ… られない これが相当難しいのだ。何度やってもうまくいかない。 僕と吉川さんの体重差はおよそ10キロ。 そこに無理があるのかもしれない。 試しに僕が吉川さんにロメロ・スペシャルをかけてみることにした。 反動をつけて吉川さんを持ち上げ… られない やっぱり無理だ。 僕たちはレスラーではないのだ。 こんな高度な技は無理である。 プロレス式マッサージから、ロメロ・スペシャルは外す事にしよう。 |
プロレス式マッサージのプログラムはこれで終了である。スピニングトーホールドからボーアンドアローバックブリーカーまで、一通りの技を受けた。 果たして、マッサージ効果はあったのか? 技によってはあると思う。 筋が伸びてるなぁ、と感じた技は、コブラツイスト、卍固め、ボーアンドアローバックブリーカーあたりである。 この3つの技に共通するのは、すべて猪木さんの技、という点である。 ってことは、アレだ。猪木さんはリング上で相手をマッサージしていたという事だろうか? いや、そんなはずはない。猪木さんはストロングスタイルのレスリングなのだ。マッサージだったはずがない。 僕が憧れる猪木さんの名誉にかけて、プロレス式マッサージは成立しないという事にしておこう。 ロメロ・スペシャルをやろうとして訳の分からない形になった |
後日、吉川さんから一通のメールが届いた。 「家に帰ったらセーターが破けていました。 相当の闘いだったんですね。 やはりプロレスは裸でやるもんだなと思いました。」 きっとロメロ・スペシャルをやっている時に破れてしまったのだろう。 申し訳ない事をしてしまった。 (2008/12/1 住正徳) |