見知らぬ人と抱き合う事で喜びを分かち合う「フリーハグ」。オーストリアから始まったそのムーブメントは、インターネットを通じて世界各国に広まったという。日本にも「フリーハグ」を実践している若者が結構いると聞く。渋谷駅で「FREE HUGS」と書かれたプレートを持って立っている人たちを見かけた事もある。何かと世知辛いこのご時世である。抱き合う事で喜びを分かち合えるなら、それはとても素晴らしい事だと思う。 是非やってみたいが、プレートを持ってる人に声をかける勇気はない。ましてやプレートを持って街角に立つなんて、絶対に無理である。「フリーハグ」で喜びを分ち合う人たちを尻目に、「どうせ俺なんて」と小石を蹴る事くらいしか出来ないのだ。 果たしてそれでいいのか? いや、良くない。 「フリーハグ」の負け組にならないために、段階を踏んで挑戦するのはどうだろう。 まずはそう、無機物からだ。 |
【渋谷の街角でフリーハグ】
「出来る範囲でフリーハグ」に挑戦するのは渋谷。この街には本当のフリーハグで喜びを分ち合っている人たちがいる。フリーハグの勝ち組だ。いつかは俺もあっち側に入ってやる、そんな反骨心を駆り立てるため、あえてこの街を選んだ。 まずは渋谷のシンボル、ハチ公にフリーハグしてみよう。 ハチ公にフリーハグ 出来る事ならハチ公像そのものにフリーハグしたかったのだが、そうするには土台の上に乗らなくてはならない。そんな事をするのは酔っぱらいか成らず者である。僕が目指すのはラブ&ピース。街の風紀を乱してはいけないのだ。おとなしく、ハチ公像の土台にフリーハグしておいた。 しかし、ごつごつして抱きにくい。本物のフリーハグではあり得ない感覚であろう。石相手なので仕方ない。 モヤイ像にフリーハグ ハチ公像から東急百貨店東横店を挟んで反対側、渋谷駅南口のモヤイ像である。こちらはハチ公の土台と違い、ごつごつはしていない。土台よりも抱き易いはずであったが、顔に角度がついているので「ハグ」というよりも「身を預ける」という格好になってしまった。喜びを分かち合えるような姿勢ではない。 あと、モヤイ像の周りの雑草は何とかした方がいい。 コインロッカーにフリーハグ 「LOVE」と描かれたコインロッカーを見かけたのでフリーハグしてみた。しかし、コインロッカーは大きいので全部を包み込む事は出来ない。ロッカーにくっついている、と言った方が無難であろう。「LOVE」と描いてあるからといって、それがすぐに「フリーハグ」に繋がる訳ではない。 「出来る範囲でフリーハグ」で喜びを分ち合うには、相手の大きさと形状を見極める必要がありそうだ。 センター街の入り口にフリーハグ センター街入り口のアーケードである。ちょうど手がまわる太さで抱き易い。本当のフリーハグに近い感覚なのではないだろうか。相手が金属なのでひんやりする、という欠点はあるが、抱き心地としてはかなり良い。 よし、フリーハグの良さが分かって来た。この感覚だ。 税金にフリーハグ 納税を促す大きな柱に抱きついた。「税金で明るい未来を子供らに」。次世代を担う子供たちと間接的に喜びを分かち合うことが出来た。柱を介した子供たちとのグルーヴ。まさに「出来る範囲でフリーハグ」の醍醐味である。この柱が税金で作られてたら嫌だな、とか思ってはいけないのである。 そして、再開発が進む東急文化会館跡にやって来た。 バスターミナルを照らす大きな街灯がやけに寂しそうである。人知れず周囲を照らしている。ああ、抱きしめずにはいられない。 大きな街灯に フリー ハ グ! 照らしてくれてありがとう。そんな感謝の気持ちが自然と湧いて来る。 バイク進入禁止にフリーハグ 進入を禁止してくれてありがとう。 柴崎コウにフリーハグ もう、お前を離さない。 タクシー乗り場でフリーハグ タクシーを待たせてくれてありがとう。 |
次第に道行く人の視線も気にならなくなっていく。そう、最初は人目が気になって仕方なかったのだ。あ、あいつ「フリーハグしてるぜ」と陰口を叩かれてるに決まってる。そんな卑屈な気持ちが自分の中にあったのだ。しかし、フリーハグを続けるうち、心のバリケードが解かれていくのが分かった。
心を開けなければ喜びを分ち合う事は出来ない。色々な物にフリーハグを続けるうち、体中がラブ&ピースで満たされて行く。もう少し頑張れば生身の人間ともフリーハグ出来るかもしれない。
愛を奏でるストリートミュージシャン 今会いに来て、うん、今会いたい。そんなラブソングを弾き語るストリートミュージシャンを見つけた。甘いバラードが周囲の人間を魅了している。 この人が歌い終わったら、「フリーハグ!」と声をかけてみようか。これだけのラブソングを歌う人だ。きっとフリーハグにも乗ってくれる。 今会いたい、 うん、会いたい。 フリーハグ! やっぱり無理だ。 今回はあくまでも「出来る範囲でフリーハグ」である。あまり無理をすると熱が出てしまう。 「出来る範囲で、かまわないから」とさだまさしさんも歌っていた。 (2007/12/24 住正徳) |