大江千里さんの「格好悪いふられ方」は名曲だ。男の気持ちをうまく描いていると思う。恋愛中には気付かなかった「大事な事」に別れて初め気付いてしまう。そして、いつまでも別れた彼女を思い出したりするのだ。そんな未練たらしい男心を「格好悪いふられ方」と表現したのだろう。凄く分かる。男は、少なくとも僕は、昔の恋愛を引きずりがちだ。いや、「引きずる」と言うと語弊がある。言い直すと、過去の恋愛を勝手に良い思い出にしてしまうのだ。別れるにはきっとそれなりの理由があった訳なのに、そういう事を忘れて良い思い出として括ってしまう。だから駄目なのだ。同じ事の繰り返しになってしまう。そんな「格好悪いふられ方」ではなく「格好いいふられ方」はないものか。考えてみよう。

【ふられ方の定番スタイルで検証する】 アンタなんて！ ふられる時の定番といえば、これだろう。「アンタなんて最低！」という罵声とともに平手打ち。約束を破ってしまったのか、ひどい事を言ってしまったのか、浮気をしてしまったのか。とにかく、平手打ちが出たら二人の関係はかなりまずい。修復は難しいかもしれない。本当に「格好悪いふられ方」である。 この平手打ちを「格好よく」切り抜ける方法を考えていく。

【その1：肯定】 女の子が彼氏を平手打ちするなんてよっぽどの事だ。叩かれた男より叩いた女の子の方が心を痛めているに違いない。そんな彼女に対して有効的な一言は、 「ありがとう。目が覚めたよ」 だ。平手打ちによって僕は生まれ変わった。これからは大丈夫だ。ありがとう、と平手打ちによって二人の関係が修復された風に話の流れを持っていくのだ。

【その2：下あご】 叩かれた瞬間に下あごを突き出す事で、彼女に猪木を連想させよう。あ、私、猪木を叩いちゃった。猪木なのにごめんなさい。そんな風に思ってもらえるはずだ。

【その3：飛んだメガネをすかさず掴む】 頬を叩かれたらメガネだって飛ぶだろう。そんな場合は素早くメガネをキャッチしよう。抜群の反射神経をアピールする事により彼女のハートを取り戻すのだ。

【その4：腕を組んで「別に」】 叩かれたからといって怯んではいけない。腕を組んで「別に」と言ってあげよう。きっと彼女は怒ってもう1回叩いてくるので、その時は「特にないです」と不機嫌な態度で。毅然とした態度で平手打ちを受け入れる事が大切だ。

【その5：スウェイバックで交わす】 スウェイバックによって上体を防御しよう。平手を交わした後、スウェイバックから上体を戻しながらジャブを打ち始めるのだ。平手打ちの角度によっては、ダッキング、ローリングで交わす手もある。ダッキングで交わした場合は上体を戻さずに、ダッキングの姿勢のままジャブもしくは左ストレートで反撃するのが良い。

【その6：手を取って背負う】 彼女の右手をしっかりと掴み、自分の右足を彼女の右足の前に運ぶ。前回りさばきで彼女の体勢を崩しつつ、彼女の右脇の下につり手のひじを入れる。最後は引き手を強く引き彼女を背負って投げよう。

【その7：箸で掴む】 お前の平手ごとき、こうしてやるわ。と、剣の達人ぶりを見せつけよう。彼女の平手などハエに比べたら容易いものだ。また、さりげなく箸を取り出す事で「僕は割り箸を使いません」という環境問題への取り組みもアピール出来る。

【その8：立つ】 剣だけでなく中国拳法も極めている事を思い知らせてあげよう。「キル・ビル Vol.2」に登場する中国拳法の達人、パイ・メイの要領で。

【その9：分け目を変える】 俺は髪の分け目を自由自在に変えられる男だ。

【その10：写メで自分撮り】 カメラをナイトモードにする事を忘れずに。せっかくの瞬間を撮りこぼす事になってしまう。決定的な瞬間をカメラに収める自信がない場合は、動画モードにすれば安心だ。映像が撮れたらyoutubeにアップして世界中に発信しよう。

【その11：ダイアンに報告】 テレコに向かって今起きた事を報告しよう。 「ダイアン、今、午後の9時15分。僕は彼女から平手打ちを食らった。その痛みは想像を絶するものだ。顔全体が腫れているように感じる。もしかしたら左の奥歯が抜けているかもしれない。右手を口の中に突っ込んで奥歯の安否を確認したいが、それすら出来ないくらい痛むんだ」 そう、「ツイン・ピークス」のクーパー捜査官だ。何で今更「ツイン・ピークス」を引き合いに出すかと言うと、最近ゴールドボックスを買ったからだ。

【その12：子犬を救え】 車に轢かれそうになっている子犬を救ってあげよう。テリーマンは子犬を救って超人オリンピックを予選落ちしたのだ。それくらい、子犬は大切なのである。

【その13：たき火の前でハム】 火を起せ。そして、火の前でハムを食え。ナイフごとハムを食らい、バーボンを胃に流し込むのだ。

ハムを食べても彼女が許してくれなかったら自分探しの旅に出よう。きっと新しい彼女が見つかるはずだ。 （2007/12/3　住正徳／イラスト・永井幸）

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