スミマサノリ「月曜日にオジャマシマス」

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度の強いメガネはそのレンズの厚さから牛乳瓶に例えられたりする。マンガ「キテレツ大百科」に登場する大学生、勉三さんがかけているようなメガネがそれだ。勉三さんは6浪の末大学に入学した努力家で、そのガリ勉ぶりが牛乳瓶の底のようなメガネによってうまく表現されているのだと思う。ガリ勉→視力の低下→牛乳瓶。そんな勉三さんのメガネを実際に作ってみたいと思った。度の強いレンズを使うのではなく、本物の牛乳瓶を使って。





【牛乳瓶は進化していた】

勉三さんメガネの作り方は簡単だ。牛乳瓶を2本用意して、その底だけを切り落としレンズとする。あとは針金でフレームの骨組みを作り、それをパテと粘土で肉付けしていく。たったこれだけの工程で勉三さんメガネが完成する、予定だ。

牛乳屋さんで瓶入りの牛乳を購入した。明治メグミルク牛乳だ。



明治メグミルク牛乳


パック詰めの牛乳が主流の昨今、牛乳瓶を手にしたのは久しぶりだ。もしかしたら小学校の時の給食以来かもしれない。と思ったが、実家の母は未だに牛乳の配 達を頼んでいるので、実家では良く見かけていた。ちなみに牛乳受けの中に家のカギを隠す習慣も変わっていない。不用心である。



フタはプラスチック製


昔の牛乳瓶は紙のフタで密封されていた。牛乳のフタを開ける為の針があって、それをフタに刺して開ける。うまく刺さないと紙の表 面だけが剥がれたりして面倒だった記憶がある。最近のフタはプラスチック製になっていてとても開けやすい。瓶自体も軽量化されたらしく、明治乳業さんの牛 乳瓶は従来のものよりも23%も軽くなっているそうだ。牛乳瓶は僕の知らない間に進化を遂げていたのだ。

牛乳瓶のうんちくはこの辺にしておいて、底部分だけを切り落とすため、まずは牛乳2本を飲み干さないといけない。



牛乳を飲む


200mlの牛乳を2本、一気に飲んだ。牛乳を飲む時は一気と相場が決まっている。ちょっと胃がもたれるが、これで栄養補給もバッチリだ。



この底部分がレンズになる



底越しに見える風景はかなり歪む


牛乳瓶の用意が出来たので、ここからは底を切り落とす作業に入る。





【NASAでも使っている道具とダイヤモンド】



ガラスを切る道具


牛乳瓶を切るために、コッピングソーという道具を買ってきた。パッケージには、「アメリカ航空宇宙局、NASAも使用」と書いてある。ロケットの尾翼をこれで切ったりしているのだろうか。牛乳瓶を切っているわけではあるまい。



ダイヤモンド入りの替刃


牛乳瓶は分厚いので超硬金属用の替刃を使いなさい、とお店の人から薦められた。なんとダイヤモンドを使用しているという。2本で1500円。そんなに高くない。ガラスの他にも石やタイルなど、とにかく硬い物を簡単に切る事が出来るらしい。NASAで使ってるコッピングソーにダイヤモンドの刃。これ以上の組合せはないだろう。あっという間に切り落とせるに違いない。



底を切り落とす



ギコギコと力をこめる


ところが、これが全く簡単ではなかった。かなりの回数、ギコギコやってもちっとも切れる気配がしないのだ。



15分経過



30分経過


30分がんばって、ようやく1センチほどの穴が空いた。
これはまずいぞ。下手したら徹夜作業になってしまうかもしれない。ピッチを上げていきたいが、手が痺れて力が入らない。

30分であっという間に途方にくれてしまった。
ここはひとつ、目先を変えて別の作業を先行させよう。

針金でフレームの骨組みを作っていく事にする。





【別作業で現実逃避】

自分のメガネのサイズを測り、骨組みの長さの参考とした。柄の部分が片側145ミリ。柄とレンズを繋ぐ部分が片側8ミリで、レンズとレンズの間が 12ミリである。レンズの部分は牛乳瓶の底の円周となる。牛乳瓶の底は直径50ミリなのでその円周は、2×円周率×25(半径)で割り出せる。つまりレン ズ1つの周囲は約157ミリである。

と、いかにも円周の計算式を覚えていたかのように書いてしまったが、ネットで検索して公式を拾ってきた。円周の出し方なんてすっかり忘れていた。



針金を曲げて



フレームの骨組みを作成


レンズの部分を丸く折り曲げるのが難しかったので、骨組みは下半分だけにする事にした。これでも充分レンズを支えられるだろう。

あっさりフレームが出来上がってしまったので、ガラスを切る作業に戻らないといけない。気合いを入れ直してコッピングソーを握った。



立った方が力が入る気がする


別の作業を先行させたからといって、ガラスが切りやすくなっている訳ではない。状況はさっきまでとちっとも変わっていない。かなり根気が必要な作業である。ほぼ無心でコッピングソーをひいていく。

ギコギコ、ギコギコ。

再び30分ほど経過して、穴の長さは5センチ程度に広がった。先ほど計算したようにレンズの円周は15.7センチ。1時間がんばってやっと3分の1である。

ギコギコ、ギコギコ。

……。

俺は脱獄を狙う服役囚か?

看守の目を盗んで毎日少しずつ窓の鉄柵を削る。3年くらいやり続ければ脱獄出来るかもしれない。わずかな希望を胸に、来る日も来る日も鉄柵を削る。

まさにそんな気分である。とても辛い。



シャバを夢みて


もう少しやって状況が変わらないようだったら諦めてしまってもいい。瓶のままフレームにはめてしまうという手もある。飛び出すメガネだ。飛び出すメガネの方向で考え直していたその時、状況が急変した!

パコンっと音を立てて一気に底が外れたのだ。とりあえず全体的に溝を入れていたのが良かったのかもしれない。



でも欠けてる


しかし、少し欠けてしまっている。溝の深さが均等じゃなかったのだろう。残念ではあるが、やっと出来たレンズである。やり直すつもりはない。少し欠けているくらいが勉三さんのメガネっぽくもある。前向きに考える事で問題が問題でなくなった。まるで魔法だ。





【ゴールが見えた】

全体的に溝を入れれば切り落とせる事が分かり、作業のモチベーションも上がる。2本目は溝の深さを均等にするよう、気をつけてコッピングソーを引いていった。



そして2個目


約1時間後、今度はほぼ完璧な状態で底だけを切り落とす事に成功した。

ここまで4時間以上かかってしまった。手の痺れも限界を過ぎていたが、レンズさえ出来てしまえばこっちのものだ。一念岩をも通す、である。勉三さんメガネへの強い思いが分厚いガラスに打ち勝ったといえよう。

あとはフレームの骨組みとレンズをパテでくっつけてしまえば、勉三さんメガネの完成である。



フレームに肉付け



骨組みとレンズをパテで固定


そしてついに、勉三さんメガネが完成した。



勉三さんメガネ


「牛乳瓶の底のような」ではなく、リアルに牛乳瓶の底をレンズにしたメガネである。



来年ダメだったら大学は諦めます


本当に度の強いメガネのように、視界がボケて歪んでいる。レンズ越しの目が大きくなっているあたり、勉三さんというよりも往年のケント・デリカットさんを彷彿とさせる。

ユタ、バカにしないでよ。


(2007/11/12 住正徳)


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